
「来年、パリに住もうかな。」
友人と別れた帰りのエレベーターで、心の奥に静かな「はい」が腑に落ちた。
拠点を増やしてきたときと同じ、よどみのない感じ。
もちろん現実にはビザや制度、天候や暮らしの不便がある。
それでも惹かれるのは、16歳の頃から心に棲みついていた憧れと、ここで再び立ち上がる美意識と呼吸の感覚、そして”効率よりぬくもり”を選ぶ生き方に、今の私たちがはっきりと共鳴しているからだ。
出典:ポッドキャスト「ライフトラベラーカフェ」
cafe.200 え?パリに引っ越すの?
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1. 決める力——熱ではなく、静けさから立ち上がる合図

大きな選択は、情報の総量ではなく、内側の静けさが基準になる。
迷いがゼロになるのではなく、迷いのざわめきの中でいちばん澄んだ音に気づくこと。
今回のパリもそうだった。”はい、これですね”という穏やかな合図が鳴った瞬間、未来の自分と小さく握手を交わした感覚があった。
いまのあなたが”静かにうなずける”選択は何ですか?
2. 憧れの種、遠回りの羅針盤として生き続ける
16~17歳の頃、年上向けの雑誌で出会った「自立したパリの女性たち」。
自分の美しさを自分で引き受け、家族も仕事も夢も社会も視野に入れながら、喜びと豊かさを大切にする姿。
地方で育った当時の私には遠い日常だったけれど、その感覚は長い時間をかけて私の輪郭を少しずつ修正し続けた。
メイクも装いも、驚くほど当時の軸から大きくはぶれていない。憧れは、一度きりの衝動ではなく、遠回りの羅針盤として息をし続けるのだ。

10代のあなたが抱いた憧れは、いま、どこで息をしていますか?
3. 美意識という姿勢、効率より”景観と手触り”を選ぶ
パリでは、街並みに対する美意識が暮らしの基準になっていると感じる。
たとえば、外観を損なうものを表に出さない配慮が当たり前に語られるのを聞くと、不便があっても守りたい秩序があるのだとわかる。
ブランドに興味があるわけではない。ただ、日常に置く一つ一つへの眼差し。
“美しくあるための手間”をいとわない姿勢に惹かれる。

今日の暮らしで、あなたはどこに「美しさのための一手間」をかけますか?
4. 不便の価値、速さと遅さを重ね、命の手触りを取り戻す

ここは効率化の最前線ではない。
だからこそ、工夫や会話、身体の感覚が呼び戻される。
AIや自動化の速さに馴染んでいるほど、街の”遅さ”に触れたときに、創造性や信頼が立ち上がるのがわかる。
太陽は少なく、曇りは多い。便利とは言えない。それでも”不便さ”を抱えることで、時間がふくらみ、関係が深まり、生活に温度が戻ってくる。
「太陽以外は何でもある」と笑う人の言葉を思い出すたび、欠けているものの中にしか育たないものが確かにあると感じる。
あなたが”あえて残したい不便”は何ですか? それは何を育てますか?
5. ボンジョー、新しい暮らしへ

けれど、「行くべきところに行く」という確信は、暮らしの中でしか確かめられない。
わからないまま始める——その余白に未来は芽吹く。
ショコラショーを片手に、今日の一歩を。